有島武郎『小さき者へ』
自殺した友人の三回忌が近い。
当日、あいつからきたあのメールに返信していたら少しでも生きるきっかけになったかもしれないのに、アホだなあ。
いま生きていたらさぞや美味い酒が飲めただろうに、アホだなあ。
何十回も繰り返した後悔と得体の知れない虚無感。
自殺を知らされた次の日から二日間は「家に帰ってひとりになったら後追いする」という強迫観念に駆られ、外泊を続けた。
死に顔を見てしまったら気が狂うかもしれない、と葬式を恐れた。
けれど三日後、何もなかったかのように出社し、葬式に行っても狂わず、
三年後のいまも平然と生きているのは、彼が残した一冊の本が強烈だったからかもしれない。
離婚・死別・家出・殴り合い・怒鳴り合い・婚外子・借金。
幼少期・思春期の「家庭環境の問題」ただそれだけで実際に死んでしまう人間もいる。
周囲が幸せそうに笑っているなか、どうしても溶け込めずに、ひとりで生きる道を選ぶ。
もちろん、成人すればある程度は解決するが、心の底が晴れることはない。
大変アピールはダサいと知っているから、何事も軽やかに笑い飛ばす。
多くは語らなかったが、彼も例外ではなかった。
その彼が、亡くなる数週間前に私に貸した本が有島武郎の『小さき者へ』だった。
父親から子に宛てたその文章が放つどうしようもないさみしさがたまらなく人生の本質を描いている気がして、この本が手元にある限りは生きていようと思った。
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